コンセプトとターゲットの明確化
カフェを開業したいと考える人の中でも、本好きにとって憧れのスタイルであるブックカフェ。
お気に入りの本に囲まれ、コーヒーの香りに包まれて働く毎日は理想的ですが、ビジネスとして成功させるためには、一般的な飲食店以上に綿密なコンセプト設計が必要不可欠です。
ブックカフェと一口に言っても、そのスタイルは千差万別です。
静寂の中で深い思索に耽るための隠れ家を目指すのか、あるいは絵本や児童書を充実させ、親子で賑やかに過ごせるコミュニティスペースを目指すのかによって、必要な物件の広さも、揃えるべき本の種類も、そして内装のデザインもガラリと変わってきます。
まずは誰にどんな本と出会いどんな時間を過ごしてほしいかというターゲット像を具体的にイメージすることから始めましょう。
ビジネス街の近くなら、仕事帰りの会社員がインプットを行ったり、頭を休めたりするためのビジネス書や写真集を中心にした選書が喜ばれるかもしれません。
一方、学生街であれば、サブカルチャーやアート系の雑誌を揃え、若者が刺激を受けられるような空間作りが有効でしょう。
ブックカフェの主役はあくまで空間と時間です。
ターゲット層のライフスタイルを深く分析し、彼らがわざわざ足を運びたくなるような独自のテーマや世界観を構築することが、競合ひしめくカフェ業界で生き残るための第一歩となります。
仕入れルートの開拓
ブックカフェを開業するにあたって最大の壁となるのが、実は本の仕入れです。
本を店内で閲覧させるだけのライブラリー型であれば、個人で購入した本を並べるだけで済みますが、気に入った本を購入できるようにする書店型を兼ねる場合は、正規のルートで商品を仕入れる必要があります。
ここで知っておくべきは、日本の出版流通の仕組みです。
一般的な書店のように新刊を扱う場合、大手取次会社(本の問屋)と契約を結ぶ必要がありますが、これには高額な保証金や販売ノルマが求められることが多く、個人経営の小規模カフェにとっては非常にハードルが高いのが現実です。
そのため、小規模書店向けの専門取次を利用したり、出版社と直接取引(直取引)を行って仕入れたりするルートを開拓するのが一般的です。
直取引は手間がかかりますが、そのぶん、店主の熱意が伝わりやすく、個性的なラインナップを作りやすいというメリットもあります。
一方、古書をメインに扱う場合は、比較的参入障壁は低くなります。
ただし、古本を買い取って販売するためには、管轄の警察署で古物商許可を取得しなければなりません。
仕入れルートとしては、お客様からの買取、古書組合が開催する市場(交換会)への参加、あるいはネットオークションやせどりなどがあります。
新刊と違って定価で販売する義務(再販制度)がないため、希少価値のある本にはプレミア価格をつけるなど、店主の目利き次第で利益率をコントロールできるのが古書の面白さです。
最近では、新刊と古書をミックスして陳列し、新旧の垣根を超えた提案を行うスタイルも人気を集めています。
どのような本を扱うかによって、必要な手続きやビジネスモデルが根本的に異なることを理解し、自分の店に合った最適なルートを選定しましょう。
長居を前提とした収益化の工夫
飲食店経営のセオリーにおいて、客席の回転率は売上を左右する重要な指標ですが、ブックカフェはこの点において構造的なジレンマを抱えています。
「ゆっくり本を読んでください」という業態である以上、お客様の滞在時間はどうしても長くなり、回転率は悪化せざるを得ません。
コーヒー1杯で何時間も粘られてしまっては、経営が成り立たなくなってしまいます。
そこで重要になるのが、回転率の低さをカバーするための多角的な収益ポイントの確保です。
一つの方法は、客単価を上げることです。
ドリンクだけでなく、原価率を抑えつつ満足度の高いフードメニューやデザートを充実させ、本を読むついでではなく食事も楽しめる場所として利用してもらう工夫が必要です。
また、最近増えているのがチャージ料の導入です。
最初の1時間は500円、以降30分ごとに〇〇円といった具合に、滞在時間そのものに対価を支払ってもらうシステムにすれば、長居されることがむしろプラスになります。
フリードリンク制と組み合わせることで、コワーキングスペースのような機能を持たせることも可能です。
本の販売利益はもちろんのこと、店内の壁面をギャラリーとして貸し出したり、読書会やトークイベントを開催したりして、飲食以外での収益源を作ることも有効です。
本に関連した雑貨や文房具、オリジナルグッズの販売も、利益率を高める助けになるでしょう。
本を売る飲食を提供するという枠にとらわれず、その空間が生み出す価値全体をマネタイズする柔軟な発想こそが、ブックカフェを長く愛される場所に育てる鍵となります。
