納棺師の仕事内容
映画『おくりびと』で広く知られるようになった納棺師(のうかんし)は、故人が棺に納められるまでの時間をサポートし、最期の姿を美しく整える専門職です。
葬儀社がこの業務を兼任することもありますが、より専門的な技術を持った納棺師が依頼されるケースが増えています。
主な仕事内容は、故人の身体を清める湯灌(ゆかん)、死装束への着替え、そして死化粧(エンゼルメイク)を施し、棺へと納める一連の儀式を執り行うことです。
しかし、単に作業を行うだけではありません。
病院での闘病生活や事故などで変化してしまった故人の容姿を、生前の元気だった頃の面影に近づける復元の技術も求められます。
痩せてしまった頬に綿を含ませてふっくらさせたり、血色を良く見せるメイクを施したりすることで、遺族がまるで眠っているようだと思えるような安らかな表情を作り出します。
このプロセスは、遺族が故人の死という現実を受け入れ、心の整理をつけるためのグリーフケアとしての側面も強く持っています。
厳粛な空気の中で、故人の尊厳を守りながら手際よく、かつ丁寧に行動することが求められる、非常に繊細で責任の重い仕事です。
納棺師に向いている人
納棺師に向いているのは、深い思いやりと冷静な判断力を兼ね備えている人です。
まず、遺族は深い悲しみの中にいます。
その感情の機微を察知し、かける言葉一つ、所作一つに細心の注意を払える高いコミュニケーション能力と配慮が必要です。
決して事務的にならず、かといって感情移入しすぎて自分自身が業務を遂行できなくならないよう、プロとしての精神的な強さも不可欠です。
また、遺体という死の現実に直接触れる仕事であるため、衛生面への正しい知識と、物理的な抵抗感を持たずに尊厳を持って接することができる倫理観が求められます。
さらに、意外と知られていないのが体力勝負であるという点です。
故人の身体を動かして着替えさせたり、棺に納めたりする作業は、腰や腕に大きな負担がかかります。
丁寧で細やかな指先の技術と、大人一人を支える基礎体力の両方が必要とされるため、心身の健康管理ができる人でないと長く続けることは難しいでしょう。
手先の器用さや美容の知識がある人も、そのスキルを存分に活かすことができます。
納棺師になるには
納棺師になるために、法律で定められた必須の国家資格はありません。
学歴や経歴に関係なく誰にでも目指すチャンスが開かれています。
一般的なルートとしては、葬儀社や納棺専門の会社に就職し、現場での研修(OJT)を通じて先輩から技術や作法を学ぶケースがほとんどです。
近年では、葬祭ディレクターを養成する専門学校などで、納棺の基礎知識や遺体の保全技術を学ぶコースも増えており、そこで基礎を身につけてから就職する人もいます。
就職後は、宗派ごとの葬儀のマナー、着物の着せ方、ご遺体の状態に合わせた処置方法など、覚えることは山のようにあります。
納棺師としてのやりがい
最大のやりがいは、遺族からの心からの感謝の言葉です。
「きれいな顔にしてくれてありがとう」「これで安心して送り出せます」という言葉は、納棺師にとって何よりの報酬となります。
人生の幕引きという、二度とやり直しのきかない厳粛な瞬間に立ち会い、故人と遺族の最後の別れを温かいものにする。
それは、他の職業では味わえない深い充足感と、人間の尊厳に関わる誇りを感じられる瞬間です。
心を形にする究極のサービス業として、今後ますます社会的な重要性が高まっていく仕事といえるでしょう。
